自由研究 「宝石の種類の調べ方」
1. 研究の動機
僕は、鉱物や宝石が大好きです。
地球からの贈り物である鉱物は、とても不思議で美しく、人を魅了する力を持っています。
自然のままで立方体の石、割っても割っても平行四辺形に割れる石、光を当てると色が変わる石、文字が浮き上がってみえる石など、いろいろな石があります。色も形も1つも同じものはありません。ぜんぶ違う、どれもオンリーワンの石です。
毎週末のように、鉱物・宝石のミュージアムを訪問したり、様々な場所で開催されているミネラルマルシェに参加したりしています。
ミネラルマルシェでとても安く販売していた「訳あり裸石」を購入しました。
しかし、様々な宝石がまとめて入っているため、宝石の種類が分かりません。
そこで、宝石の種類を見分ける方法を調べたいと考えました。
2. 問題提起
「宝石の種類を見極める方法はあるのか?」
3. 宝石を特定する方法の仮説
僕は、1学期の間に、デジタルで「わくわく鉱物図鑑」をつくりました。
様々な鉱物・宝石の本を参考にしながら作ったものです。
それをみていただくと、宝石によって、色、比重、屈折率などが1つずつ違うことが分かります。
それらを測る方法がわかれば、宝石の名前を特定できるのではないかと考えました。
4. 宝石の鑑別の手法
宝石鑑別の手法には以下のような方法があることが分かりました。
僕は、鉱物・宝石が大好きなので、屈折計や二色鏡などいくつかの機材は持っていたので、それを使うとなぜ鑑別できるのかを実際に機材を使って調べてみることにしました。持っていない機材に関しては、僕の持っている機材を購入させて頂いている金森貿易様にお借りしました。
- 偏光検査
- 屈折率測定
- 分光検査
- 比重測定
- 熱伝導測定
- 目視
- 拡大検査
- 二色鏡検査
- チェルシーカラーフィルター
4-1. 偏光検査
必要な機材
偏光器
鑑別方法
上部の偏光板を回して、一番暗い位置に合わせる。その後、検査石を入れて、回転させる。
1回転する間にずっと暗いままだったら単屈折。その場合は、内部構造は、等軸晶系/非晶質。
1回転する間に明暗を4回繰り返したら複屈折。その場合は、正方晶系/三方晶系/六方晶系/斜方晶系/単斜晶系/三斜晶系。
分かること
単屈折、複屈折が分かる。それにより、結晶系や構造が分析できる。
注意する点
不透明、透過光がない宝石は検査できない。
一軸性、二軸性の宝石は干渉光や干渉像が見える。
一軸性か二軸性は宝石の結晶系により決定される。
試してみた石
ガラス(単屈折):暗いまま
水晶・ロッククリスタル(複屈折):明暗する
干渉光
一軸性干渉像
二軸性干渉像
4-2. 屈折率測定
必要な機材
屈折計(内部反射式屈折計)
鑑別方法
接触液を1滴未満ほどプリズムに置いて、その上に、テーブル面を下に石を置いて蓋をして、ライトをつけて数字を読み取る。
スポット法などもある。
分かること
宝石は、種類ごとに固有の屈折率があるため、 屈折率をはかると、鉱物や宝石がほぼ特定できる。
屈折率は、どれくらいキラキラするかがわかる。
注意する点
屈折計で計測可能なのは屈折率1.79以下の宝石。
複屈折量がある宝石は、目盛りに2本の線がみえる。その差を複屈折量と言う。
シャドーエッジ(影)が薄くて、読みにくい点に気をつける。
試してみた宝石
ペリドット:屈折率1.689、複屈折量0.034だった。
4-3. 分光検査
必要な機材
分光器
鑑別方法
検査石にライトを通し、スペクトルを読み取る。
分かること
同じ色に見える光や宝石でも成分が異なる場合、分光器は光の波長成分を可視化するため、分光器によって宝石種が分かる。
試してみた光
白熱電球
蛍光灯
太陽光
4-4. 比重測定
必要な機材
比重計
鑑別方法
水を1とした時に何倍重いかを測る。
比重計を使って空気中での重さと、水中での重さを計測し、空気中の重さ÷(空気中の重さー水中の重さ)を計算する。
分かること
宝石種が分かる。
試してみた石
コランダム(ルビー) 比重:4(空気中4.8、水中3.6。4.8÷(4.8-3.6)=比重4)
アベンチュリンクォーツ 比重:2.5
4-5. 熱伝導測定
必要な機材
ダイヤモンドテスター、ジェムテスター
鑑別方法
探針を石に当てて熱伝導をはかる。
分かること
熱伝導の数値により、宝石種が分かる。
しかし、熱伝導が近似する宝石の区別はできない。また、同じ鉱物種となる宝石は同じ値を示すことが多い。
注意する点
室温や石の状態によって変わることがあるため、正確な鑑別にはならない。
試してみた石
ガラス、ルビー。熱伝導の違うものは、素手で触った時にも感触が違う。
4-6. 目視
必要な機材
なし。目で見る検査。(機材を使わない。)
鑑別方法
照明をあてて、目でみる。
注意してみるもの
色、透明度、光沢、カット、表面状態、インクルージョン、大きさ。
目視が必要な理由
機材を用いる前に目視で検査をすることが必要。なぜなら、スターサファイアやスターガーネットなどのアステリズム(スター効果)やアレキサンドライトの色が変わるカラーチェンジ(変色効果)は機材を通さないほうがよく見えるから。
宝石種ごとに典型的な色の範囲も決まっていることがあるので色は目視するのが良い。
透明度によっては偏光検査ができなかったりと、ほかの検査の可否も確認できる。
4-7. 拡大検査
必要な機材
顕微鏡(20〜80倍)やルーペ(10倍)
鑑別方法
機材を使って、拡大して特徴を探す。
試してみた石
ペリドット:黒点、インクルージョン、ダブリング(*)が見られる。
人工ガラス:泡が見られる。
ベルヌイ法合成ルビー:カーブラインと泡が見られる。
(*)ダブリング:石を通して二重に見える現象。複屈折量の大きい素材に見られる。
4-8. 二色鏡検査
必要な機材
二色鏡
鑑別方法
石に光を通し、二色鏡検査を回転させたり、石の向きを変えたり、あらゆる方向からみる。
分かること
多色性、複屈折。屈折計で見たときの先の数が分かる。
複屈折の宝石は多色性を示すことがある。つまり、多色性を示す石は複屈折だが、複屈折の石がすべて多色性を示すわけではない。
注意する点
無色の石、不透明な石は二色鏡検査はできない。
試してみた石
サファイヤ:二色鏡で二色見えた。
アレキサンドライト:二色鏡で三色見えた。
*多色性なし:非晶系、等軸晶系
*二色性:正方晶系、三方晶系、六方晶系
*三色性:斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系
4-9. チェルシーカラーフィルターによる検査
必要な機材
チェルシーカラーフィルター
鑑別方法
白熱光を当てて、チェルシーカラーフィルターを目に近づけて見る。
分かること
同じ色に見えても、目に見えないレベルでの違いがある場合があり、それを可視化する。
チェルシーカラーフィルターは屈折計に比べて早く検査ができる。石が多い時に便利。
試してみた石
青色のブルートパーズとアクアマリンをチェルシーカラーフィルダーでみると、ブルートパーズは肌色、アクアマリンは緑青色に見えた。
赤色のルビーと赤色ガラスをチェルシーカラーフィルターでみると、ルビーは鮮やかな赤色、赤色ガラスは暗い赤色に見えた。
5. 鑑別をしてみた
これまでの手法を活用して、「訳あり裸石」を鑑別できるか、実際に実験をしてみました。
5-1. 紫色 透明
目視
色:うすい紫色 透明度:透明 光沢:ガラス サイズ・形状:オーバルファセットカット
横8.87mm 縦7.01mm 高さ4.25mm 1.52CT
色帯がある。
色帯が確認できる
偏光検査1:偏光器
1回転中に明暗を繰り返す → 複屈折と確定
明暗が見える
色帯が確認できる
偏光検査2:偏光器+コノスコープ
ブルズアイが見られる → 一軸性鉱物
*ブルズアイ(単結晶のクォーツにのみ見られる干渉像)
ブルズアイ
ここまでの考察
複屈折+目視の時点で下記に絞られる。
- パープルサファイア
- アメシスト
屈折率測定
屈折率:1.545-1.555
複屈折量:0.010
*0.001誤差が出た。0.002までは誤差許容範囲であると確認した。
屈折検査
結論
クォーツ・アメシスト
5-2. 黄緑色 透明
目視
色:黄緑色 透明度:透明 光沢:ガラス
形状:オーバルファセットカット
0.74ct 横4.92mm 縦6.95mm 高さ2.88mm
内部の割れ=フラクチャー
偏光検査:二色鏡
目視でペリドットだと疑った。今回は、偏光器ではなくロンドン二色鏡で検査した。僅かな多色性が見られた。ペリドットは多色性が見られるが、本当にわずかしか見られない。
→ 多色性あり。つまり複屈折。
拡大検査
ダブリング(複屈折量が高い時に見られる)が確認できる。
ダブリング
屈折率測定
屈折率:1.655-1.690
複屈折量:0.035
結論
オリビン・ペリドット
5-3. 無色透明
目視
色:無色 透明度:透明
形状:ラウンドファセットカット
0.78ct 横6.01mm 縦6.02mm 高さ4.60mm
おしりが高い → 屈折率が低い石はキラキラさせるために、おしりを高くする傾向がある。よって、屈折率が低い可能性が高いことが分かる。
インクルージョン:目視では見えない
偏光検査1:偏光器
明暗あり → 複屈折
偏光検査2:偏光器+コノスコープ
ブルズアイ → ロッククリスタルであることが分かる。
拡大検査
内部:フラクチャー
屈折率測定
屈折率:1.545-1.550
複屈折率:0.010
結論
クォーツ・ロッククリスタル
5-4. 赤 透明
目視
色:赤 透明度:透明 光沢:強いガラス
形状:ハートシェイプファセットカット
0.86ct 横5.76mm 縦5.88mm 高さ3.01mm
分光検査
ガーネットと疑った。ガーネットは分光器で見ると、他の赤色の透明石に比べ、特殊なスペクトルが見られる。よって、分光器で分かると考えた。
しかし、これではガーネットとしかわからないため、屈折率を測ることで、ガーネットの中での種類を特定することとした。具体的には、ロードライトガーネット、アルマンディンガーネット、スペサルティンガーネットを疑った。
ガーネットと特定できたので、単屈折であることが確定した。
屈折率測定
屈折率:1.778
結論
アルマンディンガーネット
5-5. 黒 不透明
目視
色:黒 透明度:不透明
屈折率測定
屈折率:1.55
スポット法で検査をした。
スポット法は、精度は下がるが、石が小さい時や表面状態が良くない時にデータが取れる。
鑑別が難しい
理由は
- 不透明 → 偏光器、二色鏡 不可
- 表面研磨状態が荒い → 屈折計での正確な測定困難
- 分光 → やったら特徴なし。
表面がざらざら
不透明
熱伝導測定と比重測定
可能性があるものは多結晶カルセドニー。
熱伝導率と比重からほぼ確定と言えるが、近似する値を長石類も示すため証拠としては弱い。
専門家に聞いてみたところ、EDXRFやFTIRなど高度な研究設備で可能となるが、家で検査することは難しい。
結論
おそらくカルセドニー
5-6. 薄紫 透明
目視
色:薄紫 透明度:透明
形状:ファセットボール
偏光検査1:偏光器
明暗あり → 複屈折
偏光検査2:偏光器+コノスコープ
一軸性干渉像
屈折率測定
屈折率:1.540-1.551
複屈折率:0.011
面が小さいからわかりにくかった。
結論
クォーツ・アメシスト
5-7. ピンク色 透明
目視
色:ピンク 透明度:透明
偏光検査:偏光器
明暗あり → 複屈折
顕微鏡
毛髪状インクルージョンがある。
→ トルマリンに多く見られるインクルージョン。
屈折計測定
屈折率:1.645-1.692
複屈折率:0.016
結論
トルマリン
5-8. 黄色 透明
目視
色:黄色 透明度:透明
偏光検査:偏光器
明暗アリ → 複屈折
偏光検査2:偏光器+コノスコープ
ブルズアイ
屈折計測定
屈折率:1.540-1.550
複屈折:0.010
屈折率に少し異常が見られた。
結論
クォーツ・シトリン
5-9. 緑色 透明
目視
色:緑 透明度:透明 ラウドブリリアントカット
偏光検査:偏光器
暗いまま → 単屈折
屈折計測定
屈折率:1.785以上(測定不能)
比重測定
比重:5.9
- 空気中:1.425
- 水中:1.185
- 1.425÷(1.425-1.185)=5.9375
熱伝導測定
低い → ダイヤモンドとモアッサナイトではないことが分かる。
結論
キュービックジルコニア
6. 結果
9個の宝石のうち8個は特定できた。
しかし1個は不透明、研磨状態不良の理由で特定ができなかった。
今後特定するためには、研究所レベルでの検査が必要である。
残り1個は大まかに絞りこめた。
一般鑑別でもほとんどの石の鑑別の証拠がつかめることが分かった。
7. 考察
ほとんどの宝石が、目視と偏光検査と屈折率検査で特定できることが分かった。
しかし、不透明な石、表面が粗い石、小さい石、屈折率が1.785以上などは、それでは特定が難しかった。
その場合には、他の検査をすることになるが、どの検査をするかは、石の種類によって変わること、それを見極めるためには、石の特徴の知識や検査手法の理解が大切であることが分かった。
以下の順番で鑑別をすると特定できることが分かった。
今後は、わからない石が出てきても、自分で鑑別できることが分かったため、
鑑別のスキルを高めたいと思った。
また、宝石学を極めたいと考えている。
8. 参考情報
8-1. 単屈折/複屈折のリスト
単屈折 | 複屈折 |
スピネル ガーネット キュービックジルコニア ダイヤモンド | クォーツ 結晶質 クォーツ 多結晶ベリル トパーズ トルマリンペリドット ゾイサイトコランダム |